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[vol.64] 熟成された空間の質を引き継ぐ上質リフォーム

設計:佐藤弥栄さん

建築家の設計リフォーム例(vol.64)(佐藤弥栄)
設計者プロフィールへ
床をタイル貼りにしたのは、Iさんがタイルという素材が好きだったからなのですが、屋外用としても使えるタイルを貼ることで“外のような内なる空間”を作り出す要素の一つとなりました。

矢印 リフォーム前の写真
矢印 リフォーム前後の図面
リフォームデータ
家族構成 夫婦
リフォーム床面積 55.14 平方メートル
設計期間 約3ヶ月
工事期間 約3ヶ月
工事費 約1,500万円
写真 Nacasa & Partners Inc.
佐藤弥栄建築研究所
 

リフォームの経緯
昭和レトロ住宅のリフォーム
Iさんは数ヵ月後に控えた新婚を機に、祖父母の住まいだった築 50 年余りの家をリフォームし、新婚生活をスタートさせたいと考えました。
もともと有名建築家が設計したデザイナーズマンションに住んでいたIさんは、このリフォームでも素敵な空間のデザインをしてくれる建築家に依頼したいと思われました。
親戚を通して建築家・佐藤弥栄さんに出会い、まずは 1 階のみのリフォームを行うという方向性を決め、新婚生活に向けたリフォーム計画を本格的にスタートさせました。

Iさんのリフォームでこうしたい!
新婚生活にあった住まいにしたい
インテリアデザインにこだわりを持ったリフォームにしたい
使い勝手の良いキッチンが欲しい

今回のリフォームポイント
築 50 年余りという建物ならではの熟成された空間の質を引き継ぐリフォームとする
ワイナリーをコンセプトとしたリフォームとし、外のような内なる空間をつくりだす
地中空間をイメージしたインテリアとする


リフォームシーン1[空間の質を引き継ぐ“素”と“飾”の手法]
       
   
1 シーン1メイン1一般的なリフォームの考え方としては、古くなったり使いづらくなったから新しくするという、古いものを否定するようなところがあります。しかし、中には良い意味での「古さ」を持つ建物もあります。

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2 よくリフォームでは「新旧の対比」ということを行います。対比は互いを拮抗させることで互いをより際立たせるという手法です。今回のリフォームではそのような方法ではなく、古さの上に新しいものを乗せながらも、上手に更新することで、新旧が混ざり合いそうで混ざらないという、そんな空間を作り出したいと思いました。
 
       
 
3 Iさんの家も単に古いというのではなく、できれば何も手をつけたくないと思うくらいの空気感を持っていました。それは、築50年余りという建物ならではの熟成された空間の質です。
矢印 [アンティーク家具]をご覧下さい。
 
4 シーン1メイン2その空間の質を引継ぐよう、「素」と「飾」という考え方で取り組むことにしました。「素」とは空気感や構造躯体など、もともとこの建物が持っているものを意味します。「飾」とは空間構成や仕上材など、今回のリフォームによって施されるものをイメージした言葉です。

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5 このどちらにも傾きすぎないように意識しながらのリフォームをすることで、この家に流れてきた時間を切断することなく引き継ぐことができると考えました。リフォームのコンセプトを「ワイナリー」としたのも、ワイナリーが醸し出す、時間が沈殿したかのような独特の空間の質に通じさせたいと思ったからです。
 
6 シーン1メイン3リフォームというのは、新しく手を加えようと思えばどこまででも出来ます。重要なのは、それをここでやめるという線引きです。そしてリフォームには外壁の形状や開口部の位置など、変更することが困難な部分があります。そんな手のおよび至らないところをしっかりと認識し、また尊重することも大切です。

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5 今回は建物がもともと持っていた引き継ぐべき「素」の部分を尊重し、新しくしすぎないよう「飾」としてどのように手を加えるかということを繊細に考えながら進めました。
     
       
       
リフォームシーン2[ワイナリー的“外のような内なる空間”]
       
   
1 住宅が密集する地域では、隣家や道路からの視線が気になり、プライバシーの確保が難しいものです。そんな場合は、外部に対しては閉じながらも、どうにかして空間に広がりを生み出せないかと考えることになります。
 
2 シーン2メイン1 このIさんの家は100坪という敷地の端に、延べ床面積30坪の家がポツンと建っていたため、住宅が密集する地域にありながらも、道路からの距離をおける広い庭があるという大変恵まれた環境にありました。つまりは、リフォームということで建物の形状を変えることはできませんが、窓の外にはもともと緑の風景が広がっているという環境だったのです。

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3  隣家や道路が迫る位置に大きな開口部があるのは、プライバシー確保の面からは問題になることもありますが、庭があることで大きな開口部もそのまま残すことができます。そこで、豊かな庭の風景に満足しているだけでなく、開口部との関係性において、内外を一繋がりの質を持つ空間として作り変えられないかと考えました。
 
4 リフォームのコンセプトである「ワイナリー」も、内でありながも外ともとれる空間です。内部空間と庭との繋げ方においてもコンセプトを意識することで、建物が持つ空気感や環境特性を上手に生かすことが出来ると考えました。
 
       
 
5 シーン2メイン21階部分全てをLDKや浴室という家族にとってのパブリックなスペースとしましたが、十分な広さがあるとは言えません。そこで少しでも広がりを感じられる間取り上の工夫が必要だと考えました。また、動線や収納スペース、そして何よりもこの家が抱えていた2本の柱の存在をどうするか、その観点から間取りプランに取り掛かりました。

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6 取り掛かってまもなく、さまざまな空間構成の可能性を洗い出すケーススタディを行い、Iさんのライフスタイルや要望に合うプランの方向性を確認しました。その結果、リビング・ダイニングを一体とし、キッチンを一番奥にとるというプランで進めることになりました。
矢印 [ケーススタディ]をご覧下さい。
 
       
 
5 シーン1メイン3今回のリフォームでは、躯体に影響を与えない範囲で開口部の調整を行いました。その調整によって、過去の改築において閉じられていた開口部を復活させ、また必要のなくなった勝手口を、素材の工夫によってリフォームの象徴的な存在へと変貌させました。

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矢印 [復活した開口部]をご覧下さい。
     
       
       
リフォームシーン3[空間の質を塗り替えるインテリア]
       
   
1 インテリアのテイストというものは、設計者が個性を発揮している場合もありますが、クライアントの要望や好みによってテイストを変えて行くべきだと考えています。ただ、クライアントの好みに何でも合わせるというのではなく、全体計画にあったインテリアやプランの選択が重要だと考えています。
 
2 Iさんは打ち合わせを進める中で、写真などで好みのインテリアのイメージを伝えてこられました。それらを踏まえた上で、リフォームコンセプトである「ワイナリー」をイメージさせるインテリアを提案し、それが受け入れられました。
       
 
3 シーン3メイン1ワイナリーはワインの収蔵に適した温湿度環境にある地中空間によく設けられます。それをイメージさせる素材として天井と壁の一部に杉の縁甲板を張り、塗装を施しました。木目や節を塗りつぶさないよう適度に色を乗せたのは、地中空間のゼブラ(地層)をイメージさせるためと、 素材感をコントロールするためです。木を使ったのは、ワイン樽のイメージを加えたかったという理由もあります。

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4 シーン3メイン2キッチンを囲う家具をくり抜いたり、切り取ったりしているのは、それぞれに動線や視線の抜けなどの理由があります。ただその形状だけを捉えると、まるでワインに添えられるチーズ片のようにも見えます。また葡萄の房を模した照明器具も製作しました。

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矢印 [キッチン]をご覧下さい。
 
       
 
5
ダイニング空間に作った光の装置は、必要のない勝手口を有孔コンクリートブロックで塞いだものです。90mmの厚みを持つブロックの小さな孔を通ってくる光は距離感を生み、洞窟や鍾乳洞の原風景を思い起こさせます。地中空間のイメージをさせる要素として取り入れたもので、今回のリフォームの象徴的な存在となりました。
 
矢印 [有孔ブロック壁]をご覧下さい。
 
6
インテリアも「ワイナリー」という共通コンセプトによってデザインしたことで、空間構成とも統一感が図れ、この建物が持っていた空気感を大切にしながらも、上手に空間を塗り替えることが出来たと言えます。
 
   
     


建築家のこだわりメッセージ
  どんな建物の出自も必ず意味があり、元々は固有の空間の質を兼ね備えているものだと思っています。その元々持っているはずの空間の質が時とともに色褪せ、朽ちてゆき、価値がなくなってしまったかのように埃にまみれ、そして誰も見向きもしなくなってしまう。建物の寿命を物理的な耐久性ということよりも、使う側の理由で決めてしまうことはとても寂しいことだと思います。でも壊してしまうだけがそのとき選びうる選択肢なのでしょうか。もう一度その建物と真摯に向き合い、固有の空間の質に目を向けて、価値を見出し、新鮮な息吹を吹き込んであげることは出来ないのでしょうか。スクラップ・アンド・ビルドの時代を経て今、そのときどういう選択肢を選ぶのか、むしろ我々のほうが試されている気がしてなりません。
今回の“FLAVOR”は築50年にもなるRC造の住宅のリノベーションでした。この家は施主の祖父母が建てて以来、大事に住み続けている家です。建物自体が古いために制約条件も多くしばらく途方に暮れていましたが、躯体を眺めながらふとある瞬間に新築の建物を設計するときの意識と自分の中で大きな違いがないことに気付きました。というのも、リノベーションの場合の既存建物は新築にとっての敷地のようなものであり、形態を強いる法規制のようなものです。階高や梁間といった構造的な大きな空間要素や、耐震壁や窓の位置など、プランニングをしていくうえで目には見えない圧力を与えてくるのは確かですし、一見制約や難題が多いようにも感じます。しかしそれは、容積率や建ぺい率、斜線制限といった法規制で縛られる新築の場合でも実は変わりません。むしろ、目に見えている分、具体的な空間として落とし込みがしやすいとも言えるでしょう。そういった意味で、改修だからといって選択肢を閉ざすのではなく、もっといろんな可能性に目を向けてもいいのではないかと思うようになりました。
壊してしまえば何も残りませんが、リノベーションのような方法であれば年輪のように今までの記憶の上にこれから先の歩みを刻んでいくことができます。リノベーションはもっと自由になってもいいのではないかと思います。その可能性をリフォームやリノベーションをお考えの皆さんも信じてみてはいかがでしょうか。
 
   
建築家のこだわりメッセージ
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